こんにちは。小動物看護士(ドッグシッター/小動物介護士)の須永智尋です。あなたは「飼い主の指示を聞かない犬」を見たことありませんか? 宅配業者や通行人に吠える、噛み癖がある、散歩の時に飼い主を引き摺るように走る、などなど「自己主張が強すぎないか?」そんな風に感じられる犬はアルファ症候群かもしれません。問題行動を次々と起こしてしまうアルファ症候群と、その犬の特徴、そして予防方法を紹介します。
アルファ症候群(権勢症候群)とは
なかなか聞き慣れない言葉かもしれませんが、アルファ症候群というものがあります。これは犬が「自分は人よりも強い存在」と勘違いしてしまい、飼い主の指示を聞かないことをいいます。
犬が飼い主の指示に従わない、ということは人の社会ルールを守れないということでもあります。このため、家の内外で様々な問題行動を取るようになってしまい、最悪の場合は飼うことができない状態に陥ってしまいます。
人の社会に歓迎されない犬をあなたは「飼いたい」「かわいい」「近くに寄ってきて欲しい」と思いますか?
アルファ症候群になってしまった犬は人の社会で幸せな生活を送れない犬になってしまう可能性が高くなってしまいます。
アルファ症候群は犬の本能
人の社会において、アルファ症候群にかかっている犬は困った存在です。しかし、これは「犬の本能が発揮された状態」であり、「犬の本能を刺激して発揮させてしまったのは飼い主」なのです。
というのも、犬はもともと群で生活していた動物でした。群を成す動物は強い個体がリーダーとなって群を統率し、食べ物を確保したり、敵から仲間を守ったりします。「誰が一番強いか」「誰が群を統率するか」ということに対し敏感で、「リーダーになりたい」という意識も強いのです。
もし、群の中にリーダーがいない状態になると「自分がリーダーになって群を統率しなければ!」という権勢本能が発達します。そして力比べをして優劣を決め、強いものがリーダーになるのです。
飼われている犬の場合は、飼い主と家族が群になります。もし、飼い主が犬を甘やかしたなら「この群(家族)には強いものがいない」と犬は思います。そうすると、権勢本能が発達し、自分がリーダーだ! と思い込んでしまうのです。
一度、自分がリーダーだ、と思い込むと力で倒されるまで考えは変わりません。リーダーだと思い込んでいる犬を「しつけよう」とすると「リーダーに従え!」と犬に反撃されてしまいます。この反撃が「威嚇する」「吠える」「噛みつく」という問題行動として現れるのです。
アルファ症候群の代表的なサイン
アルファ症候群にかかっているかどうか見極めるのは比較的簡単です。次の6つが代表的なサインです。
・飼い主の目を見てご機嫌伺いをしない
・散歩中、ぐいぐい飼い主を引っ張って勝手にコースを決める
・食事や遊びなどを激しく吠えて督促する
・飼い主に牙を剥き、威嚇する
・通行人などに激しく吠える(攻撃的な態度をとる)
・飼い主、他の犬、他の人に噛みつく
こうした行動が見られた場合、犬は「自分の方が飼い主や家族より強い」「人は自分に従う存在」「リーダーの座を守るために他の犬や人と戦う」と思っています。こうなってしまうとリーダーの座から引きずり落とす必要があります。
力で屈服させる方法もしくは精神的に「参った」と思わせる方法、どちらかで「犬はリーダーでない」と思わせなければなりません。
ただし、暴力で屈服させるのではありません。
・最低限のケアはするが数日間、ずっと無視し続ける
・散歩の時、引っ張ったら反対側へ犬を引っ張り、自由に歩かせない
こうして「あなたは群の一員ではない」「犬が先導しても思い通りにならない」こうしたことを根気よく覚えさせるのです。
「群に入れてください」「どうやって歩けば良い?」というように飼い主の表情を伺うようにしながら近付いてきたら、やっと人が優位に立った状態になり、しつけることができるようになります。
犬をアルファ症候群にしないための飼い主の心構え
犬が権勢本能を発揮させるのは「群にリーダーがいない場合」です。
・食事中、犬が欲しがったから自分の食べ物を分け与える
・犬が吠えて要求するから散歩に出る
・散歩中、犬が引っ張るのに任せて歩く
・飛びかかるのも、ソファの上に登るのも、棚の中を漁るのも許す
・本気じゃないから噛むのも許す
こういう状態は「群にリーダーがいない状態」ですからNGと言えます。犬が好き勝手できる環境は排除しなければなりません。「飼い主がリーダー」「飼い主に従っていれば安心」と犬が思う環境を作ります。
そのためには、まず、飼い主が「犬と人は違う」「人が犬に人の社会のルールを教える必要がある」と腹を決めましょう。
・散歩コースは飼い主が決める
・飼い主が食べる物を犬は食べられない
・ソファやベッドは飼い主のもの
こうしたことを徹底して教えましょう。それと同時に次のようなことも大切です
・フードやおやつは飼い主が与えてくれる(犬が棚を漁って自力で獲得するものではない)
・飼い主は遊んでくれる
・飼い主が安全な寝床を与えてくれる
犬自身が「飼い主に守られている」「飼い主と一緒にいると楽しくて安心」と思える環境を作ってあげましょう。
もうひとつ、大切なのは「飼い主が犬にルールを教えること」です。人の社会の中で周囲に迷惑をかけずに生きていける犬(みんなに愛される犬)に育てることで、周囲の人から歓迎され、可愛がられる犬に育てましょう。これらが「しつけ」です。
しつけの基本
しつけは「人の言うことをなんでも聞く犬を作る」のではありません。「犬の身を守る」「人の社会ルールを身につける」ものです。
例えば「ツケ」という指示は、車通りが多い道や狭い歩道でも、車を避け、歩行者や自転車と安全にすれ違えるよう、飼い主の脇について歩く指示です。犬の安全を守りながら、周囲に迷惑をかけずに人の社会で活動する技なんですね。
他にも、飛びかかり、噛みつき、無駄吠えをしない犬であれば、ドッグランやドッグカフェ、ペット可の宿泊施設などへ行っても心配することが少ないですよね。トリミングの時も、動物病院に行った時も適切な処置を確実に受けられるでしょう。
しつけは「愛犬が人の社会で快適に生活できるようにすること」と思ってください。「人の社会で楽しく生活できる犬にするための技」です。
「我慢させてかわいそう」「ちょっとだけならいいでしょう」というような甘い気持ちは犬のためにならない、と肝に銘じてくださいね。
もし愛犬がアルファ症候群になったら
アルファ症候群とは権勢症候群とも言われ、自分が一番強いと犬が勘違いし、問題行動を起こすことです。
これは群で生活していた犬が持っている権勢本能によるもので「群(飼い主や家族)の中にリーダーがいない」と犬が思った時に発生します。
吠える、噛む、威嚇するなどの行動は問題行動であり、人の社会では歓迎されません。そんな歓迎されない犬にしないために、飼い主は「リーダーとして犬を率いる存在」になりましょう。「飼い主に従っていれば安心」と犬が思えるような環境を作り、人の社会で生きていける犬を育てましょう。
もしアルファ症候群になってしまったら、プロに相談し、原因と対処法についてアドバイスを受けながら飼い主自身も意識を改めていきましょう。
「飼い主と犬の関係」「しつけ」を正しく理解して心がければ、アルファ症候群は予防できます。子犬の頃から「しつける」ということを意識してくださいね。