2017年11月06日
しつけの方法の基本は褒めることです。褒めるのに一番いいのはおやつなどのご褒美を与えることだと言われます。その際に、しつけの専門家の間で使われる「クリッカー」というものをご存知でしょうか? このクリッカー、ドッグトレーナーに好まれて使われていますが、このクリッカー果たして本当に有効なのでしょうか?今回はその報告です。
しつけの際に大切なことは、うまく行ったときに「そのタイミングで」ご褒美を与えるということです。逆に、何か好ましい行動をした時にタイミングを間違ってしまうと犬がなんで褒められたかわからなくなってしまいます。
そこで登場するのが「クリッカー」と「掛け声」です。クリッカーは押すと「カチッ」と音のするしつけの道具です。クリッカーを鳴らしてご褒美を与えるということを繰り返すことでクリッカーがご褒美をもらえる「約束」になります。掛け声も同じで「Great」や「Good」ということでご褒美をもらえると犬は理解します。
好ましい行動をした時に瞬時にクリッカーや掛け声をかけることで、犬は自分がしたいいことが何なのかを理解します。
イタリアのトリエステ大学のチアンデッティ博士は、このクリッカーには本当に効果があるのかの実験を行いました。実験に協力してくれた犬は合計51頭。17頭ずつ3グループに分け、「クリッカー」「掛け声」「合図なしでのご褒美」を使ったしつけの実験をしました。
実験に協力した犬たちは今まで家でのしつけのみを経験しており、トレーナーによる本格的な課題の訓練は受けたことがありません。トレーニングは普段生活している家の中や庭などで行われました。つまり、普段家でしつけしているのと同じ環境です。
トレーニングを行ったのは、2人のドッグトレーナーです。それぞれが各グループを半々に担当し、訓練を行いました。
訓練に使ったご褒美は、ソーセージかチーズどちらか犬が好む方を選んで与えました。
まず、訓練に慣れさせるという目的でウォームアップセッションを行いました。
このセッションでは、「鼻をボックスにつける」「足をボックスに置く」という課題を与え、成功するとご褒美がもらえます。クリッカーグループでは成功したらクリッカーを鳴らしてご褒美、掛け声グループでは「Bravo」という平坦なトーンでの掛け声の後にご褒美を与えました。合図なしグループではただご褒美がもらえるだけです。
このトレーニングによってクリッカーや「Bravo」という合図とご褒美の関係を犬は学びました。
その後に行った本試験は「Shaping」という手法を使って行われました。「Shaping」では、やるべきことに少しずつ近づくにつれご褒美がもらえという方法です。この方法を用いて、「鼻やマズルで箱のふたを押し上げて開ける」という課題のトレーニングしました。
本試験のトレーニングは1日3回までのトレーニングセッションを行い、10回中8回成功するまで続けました。さらに、その1週間後、5回中3回以上、同じ課題を成功するようように試験を繰り返しました。
次に、ご褒美なしの5分間のセッションを行いました。ここでは
1. 色が違うが似ている箱
2. 形も大きさも違う箱
という少し難易度を上げた課題を行いました。
これらの実験によって、トレーニングにかかった時間や各セッションを成功させるために課題を行った回数を比較しました。
「3つの方法でトレーニング効果に差がない」というのが今回の実験の結果です。多くのトレーナーや専門家がクリッカーの有用性を信じてきたため、今までの常識を覆すような結果となりました。
つまり、今回の課題を行うためのトレーニングにはクリッカーの必要性がなかったということになります。
今回の実験は、クリッカーの有用性を否定するものではありません。特に、遠くから褒める必要がある場合や、すぐにご褒美を与えられない状況でのしつけにはクリッカーは非常に重要です。
ただし、うまくタイミングを計ることができるなら、クリッカーはあまり意味がないかも知れません。
しつけや訓練にはいろいろな場面があり、また犬の性格もそれぞれです。
愛犬の性格や好みに合わせたしつけの方法を考えてみてくださいね。