こんにちは。小動物看護士(ドッグシッター/小動物介護士)の須永智尋です。頑張って取り組んでいるのに、なかなか上手くしつけられない。そんな飼い主さんもいると思います。また、犬の自由を束縛するのはひどい! と考えてしつけをしない飼い主さんもいます。そんな時は犬の心を覗いてみてください。犬の心、犬の心の発達・変化を知ると自然に「しつけ」が見えてきますよ。
生まれてから生後二週間まで(新生児時)
生まれたての赤ちゃんです。新生児期の犬は、まだ目も見えず、耳も聞こえていません。臭いと触った感触だけで母犬を探し、生きるために乳を探り当てて飲みます。
生まれてすぐに子犬達の生存競争は始まっています。より強く、より嗅覚や触覚が利く子犬が、より多く乳を飲むことができて早く成長していけます。
新生児のうちは母犬と子犬の生命力に任せます。人は関わる必要はありません。
もし、とても弱い子犬がいて乳を飲めない状況が続いたら、生後十日くらいから子犬の位置を入れ替えたり、人工ほ乳で成長を助けてあげます。ただし、それ以上は手を貸さず、母犬に任せてあげましょう。この時期は子犬は母犬に強く依存した時期、母犬との繋がりがもっとも強い時期です。
生後三週間目
生まれて三週間経つと、子犬は目が見え、音が聞こえるようになります。自分の足で立って動き回るようになり、母犬や兄弟犬の存在を視覚・聴覚・触覚など全身で感じるようになります。
この時期も人の手は必要ありません。子犬は母犬や兄弟達とたくさん触れ合って「自分は犬」「犬がどういうものか」を勉強していきます。
兄弟犬同士で顔に噛みついたり、母犬の体に乗ったり、ふざけあったりして「お互いの距離の取り方」「ケンカの力加減」などを覚えていきます。度が過ぎる場合は母犬が間に入ってケンカを止めることもあります。
この時期の子犬は、兄弟犬と関わりを持ち始め、犬との触れ合い方をしっかり覚えていく時期で、人の手はまだ必要ありません。
生後四週目以降
生まれて四週間を過ぎてくると、這いずるだけだった子犬も元気いっぱい! 全身の機能や感覚がめざましい成長・発達を遂げ、活発に動き回ります。この時期から人が関わっていきます。
生後四週目からは、いわゆる「社会化期」といわれる時期に入ります。順応性が高く、スポンジが水を吸収するように様々なことを覚えていきます。子犬が外の世界を覚え、関わり方を学ぶ時期がスタートします。
・遊びの過程で、獲物を倒す仕草をする(首筋に噛みつき、振り回し、ねじ伏せる)
・威嚇したり、うなり声をあげてケンカを始める
・ケンカの時の力加減を覚える
・争いを避けるために、伏せたり、お腹(弱点)を相手に見せて服従を示す
こうした犬同士の上下関係を母犬や兄弟犬から学び、犬同士の関わり方を身につけていきます。それと同時に人が関わることで犬が人の存在を覚え、関わり方を覚えていくようになります。
この社会化の時期に人と関わらなければ、人との付き合いが苦手な犬に育つ可能性が高く、どんな人と付き合うかによって、しつけやすさなども変わってくると考えられます。
生後六週目以降
生後六週くらいになると、子犬は「犬社会のルール」をほぼ身につけています。離乳も完了して子犬用のフードが食べられるようになっています。
この時期は、まだ「人の社会のルールを教える」ことはしません。ですが、人が積極的に関わるようにして「人は敵でない」「人は楽しいことをしてくれる存在」と教えていきましょう。
撫でたり遊ぶ時に「仰向けに抱いてお腹を撫でる」「口を掴む」といった「相手に服従の意志を示す姿勢」を取らせます。こうすることで「人の方が立場が上」ということを自然と覚えさせていきます。
だいたい生後八週目以降くらいから、新しい飼い主のもとへ行くようになりますよね。家族として迎えてすぐの時期は、新しい環境に不安を抱いているので、静かに休ませてあげます。
子犬が家に慣れてきたら抱いたり、全身を撫でたりして、スキンシップを図りながら「飼い主に従うんだよ」と教えてあげましょう。家に来たときから、しつけは始まっています。
生後十二週目以降
生後十二週になると子犬は親離れをします。自立心が高まり、一人で行動するようになって「上下関係を気にする」「支配性が芽生える」ようになります。
記憶力・認識力も高くなり、飼い主・家族・知らない人・他の犬・他の動物など、周囲に目を向けて把握していくようになります。
相手よりも上の立場に立とう、という意識が目に見えて出てきます。飼い主の顔色や反応を伺いながら「自分が勝った」という経験を記憶し、子犬・飼い主・家族の間で優劣・順位ができはじめます(子犬が意識をし始めます)。
この時に「これくらいならいいか」というように甘やかしたり、ルールを決めず叱ったり叱らなかったり、といった態度を飼い主がとると、子犬が「自分が勝った」と思ってしまいます。
飼い主よりも自分が強い。こう思ってしまわないように「人の指示に従うもの」「人がルール・行動を決めるもの」と日々の生活・スキンシップの中で教えるようにします。
生後半年以降
生後半年が過ぎると社会化期(基本となる性格形成の時期)が終わります。これまでの環境が、今後の性格や行動に強い影響を与えています。生後半年間の成果がここから現れてきます。
また、個体差がありますが、一歳になる前に性的に成熟します。繁殖行為、発情やマーキングといった本能的な行動も見られるようになってきます。
・オス犬にしばしばケンカを仕掛けてしまう
・マーキングをアチコチにしてまわる
・なんにでもマウンティングをして困る
こんな犬の本能に伴うトラブルも増えてきます。こうしたトラブルに対応する時も「犬が人の指示をきく犬かどうか」が大きく関わってきます。
なお、性的に成熟しても体の機能は完成していませんし、精神的にも未熟です。まだ子供を作ることは避けた方がいい時期です。また、去勢や避妊手術を考えるのもこの時期です。獣医師と相談しながら判断していきましょう。
一歳を過ぎたら
犬は大体一歳で成犬になります。人で言えば二十歳くらいです。成犬といっても、まだ精神的には大人になりきれておらず、やんちゃで子供っぽい行動を多くとります。
社会化の時期に適切な人との関係を築けていれば、成犬になってからもしつけやすく、行動範囲を広げていくことも簡単です。
体の機能が完成し、精神的にも落ち着いてくるのは二歳を過ぎてからです。愛犬の子犬が欲しい! と思った時に繁殖させるなら、二歳以降になってからがお勧めです。
しつけの要は生後半年くらいまでの過ごし方!
紹介してきたように、生まれたばかりの子犬は母犬に依存しており、その後は兄弟犬達と一緒に犬社会のルールを覚えていきます。このため、生まれて直ぐに母犬や兄弟犬から引き離すのは不適切です。
子犬には、まずスキンシップを通して「しつけの基礎」となる「人の存在」「人との接し方」を教えます。人の存在を教え、人と触れ合うのが好き、という犬に育てていきます。
大体生後八週くらいに家族として迎えるようになりますが、しつけに適した時期は始まっています。飼い主自身が常に上下関係を意識し「犬に指示を出すのは人」「人の方が強い」という考えを持っておきましょう。
生後十二週を過ぎると、子犬に自立心が芽生え、競争心・闘争心も出てきます。ここで、しっかりと「いいこと」と「ダメなこと」を教えてあげましょう。ここで飼い主が譲歩すると、犬が「自分の方が強い!」という意識を持ってしまいます。「飼い主を従わせよう」と闘争心をどんどんエスカレートさせていってしまいますから、注意してくださいね。
生後半年くらいで社会化の時期が終わります。犬の中で「人とどう関わっていくのか」という点がほぼ完成します。このため、生後半年までが勝負です。犬の順応性が高い社会化期を逃さず、人との関わり方を教えていくようにしてくださいね。