2016年12月02日

恐ろしい心臓の病気、猫の肥大型心筋症とは?

猫の心臓病の中で最も発症率が高い肥大型心筋症。心臓の筋肉が異常に厚くなり、心機能が徐々に低下していきます。発症を予防する有効な方法は見つかっていませんが、発症してしまっても適切な治療を受けることで病気の進行を遅らせることが可能です。


こんにちは、獣医師の明石照秋です。

人と同じく犬や猫にも心臓の病気は存在します。人の心臓病で有名な病気は心筋梗塞ですが、猫の場合は「肥大型心筋症」と呼ばれるものです。
心筋症とは心臓の筋肉(心筋)に異常が見られるもので、心筋が厚くなったり、薄くなったりしてしまうことで心臓が本来の機能を果たせなくなり、発症した動物は徐々に衰弱していってしまうのですね。
心筋症の多くは原因がはっきりしておらず、根本的な治療法も確立されていません。それでも病気の早期に発見することで効果の高い治療を行うことが可能になり、余命の十分な延長が期待できます。
この記事では猫の肥大型心筋症について解説しています。また、実際に肥大型心筋症を発症した場合、どう対処すればいいのかについても解説します。

肥大型心筋症の特徴

心筋症にはいくつかのタイプがあり、肥大型心筋症は名前のとおり心筋が徐々に厚くなっていく病気です。
心筋が厚くなると心臓の各部屋(心房、心室)のスペースが小さくなってしまい、十分な血液が貯まらなくなってしまいます。
そのため、一度の拍動(心臓のドックン1回)で全身に必要な血液が送り出せなくなるため、重度になると貧血などの症状が見られます。
また、本来心臓に帰ってくるべき血液が心臓に入ることができなくなり、その前の臓器で溜まってしまいます。その結果、お腹に水が溜まる「腹水」という症状が見られたり、肺にも水が溜まって呼吸困難をおこしたりすることがあります。
さらに心臓にも大きな負担がかかり、場合によっては血栓が発生し、大きな血管を詰まらせてしまうこともあります。
こうして猫の体はどんどん消耗し、衰弱してしまうのですね。

肥大型心筋症の症状

この病気の厄介なところは、ある程度病状が進行しないと目立った症状が出てこないことにあります。
そのため、早期に発見できるのは偶然によることが多いです。定期検診や外科手術の前に獣医師が聴診で心臓の雑音に気づいた、というパターンがほとんどでしょう。

肥大型心筋症でよく見られる症状には、息切れ、元気がなくなるなどで、この病気だけで見られる特徴的な症状はあまりありません。
ただ、ある日突然後ろ足が麻痺したように動かなくなった、という症状が出た場合は要注意です。これは血栓が腰周辺の血管に詰まっている可能性が非常に高く、すぐに処置をしないと足が壊死をおこしてしまいます。
肥大型心筋症を発症している猫では血栓ができやすくなっているので、この病態をおこすリスクがとても高くなっているのです。

肥大型心筋症の治療

ほとんどの場合、肥大型心筋症を完治させることはできません。この病気のメカニズムや原因ははっきりしていない部分が多く、根本的なところにアプローチできないためです。
そのため、治療は対症療法といって、症状を緩和させ、少しでも病気の進行を遅らせる目的で行われます。
肥大型心筋症の治療は投薬治療がメインです。心筋症では心臓に大きな負担がかかっているため、血管を拡張させる薬を投薬して全身の血圧を下げ、心室筋を弛緩させる薬を用いて心室や心房のスペースを確保してあげます。また、腹水や肺水腫の症状が見られるときは、利尿薬を用いて水分を体外に出してあげます。
このようにして心臓の負担を和らげ、機能が落ちつつある心臓でも十分に働けるように手伝ってあげるのですね。
猫は薬を飲むのを嫌がる子も多いですが、処方された薬は獣医さんの指示に従ってしっかり飲ませましょう。
子供用のオブラートに包んで好物のごはんに混ぜると気にせず一緒に食べてくれますよ。

肥大型心筋症を発症してしまったら

残念ながら肥大型心筋症を治すことは現在の獣医学ではほぼ不可能で、最期まで一生付き合っていく病気です。
上述したように心臓の機能が落ちているので、心臓に負担がかかることはしないようにしましょう。具体的には、過度な運動や強い緊張をおこす行動です。寝床周りに段差があるならばできるだけ平らにしてあげたり、トイレやごはんの場所をいつもいる場所から近づけてあげたりなどです。

肥大型心筋症は無症状のまま進行していくことが多いですが、ある日突然重篤な症状をおこすことがあります。前述した後ろ足の麻痺もそうですし、重い呼吸困難をおこし、命の危機になることもあります。
いきなり何がおこっても適切に対処できるよう、緊急時の動物病院の位置などを確認しておきましょう。

まとめ

肥大型心筋症を発症する原因ははっきりしていませんが、年齢や猫種に関係があることが疑われています。7歳ぐらいから発症するリスクは徐々に高まっていくとされており、早期発見のためにも定期検診を受けることがより重要になってきます。
定期検診をしっかり毎年受けることで、肥大型心筋症に限らず、多くの病気を初期段階で発見できる可能性が高くなります。
ぜひ1年に一度は定期検診を受けるために動物病院を訪れるようにしましょう。